“シアワセの法則”  『恋愛幸福論で10のお題』より

 


犬や猫は、わずかに残る野生の感受性から、
居心地のいい場所というのを嗅ぎ出すのが上手。
夏場は涼しい風のとおり道を、冬場は陽あたりのいい暖かいところを、
苦もなく見つけ、そこへ身を置いてやりすごすものなのだそうで…。


 「〜〜〜。」
 「小早川?」


だからとそこを選んでみせたタマなのだ…というのは、
この場合に限っては理屈に合わないと、
断然思えてしょうがない瀬那だったりする。
だってだって、今 タマがいるのは、
リビングのソファーの上、
進さんのお膝の上だったりするのだもの。
キッチンまでコーヒーを取りに行ってたちょこっとの間に、
どこからか姿を現して、ちゃっかりそんな特等席へ納まっててさ。
この室内にと限ったならば、
成程そこが一番に暖かいのかもしれないけれど。
ほんのすぐ左手には庭へ出られる濡れ縁があって。
そこへと接してる大窓の傍のほうが、見るからに陽あたりは良いのだし。
板の間なのが冷たいっていうんだったら、ラグを敷いてあげよっか?
あ、にあんて寝返りなんか打ってる。
広いお膝だから、そんなしても落っこちないんだ。

 「小早川?」

やわらかい躯をうにむにごろごろ、よじって見せたり。
お耳が潰れそうなほどの頬擦りとかして、
あああ、何でそんな甘えるんだよう。
ボクにだって機嫌がいいときしか触らせないくせに。
あ、あ、進さんの手。
大きいなぁ、タマの頭、隠れちゃうほどじゃないか。
そうなんだよね、撫でてもらうと気持ちがいいvv
髪の中に差し入れた指の先とかで ごしごしってしてもらうと、
触ってもらってるっていうんじゃなくて、
撫でてもらってるっていうのがはっきり届いて。
いい子だなって、あ、いやその。////////
子供扱いされるのが嬉しいんじゃなくって、
何てのか、あのその、えっと。/////////

  「小早川。」

かわいいなとか………、あのその、す、好きだよとか、
そおいうよおな気持ちがあっての、
撫でてくれてるのかなぁって。////////
そんな思うと、凄っごく嬉しくなって、
胸の奥とか ほこほこしちゃうからvv
そういう特別を、何でタマがしてもらってるかな。
今からお勉強するんだし、タマはお昼寝の時間じゃないか。
この時期だと、いつもいつも二階のボクの部屋のベランダ前で、
丁度ドアと机の真ん中ってトコに寝そべって、
人が行き来するのの邪魔するくせに。

 「小早川。」
 「あ、はははははっ、はいっ。」

両手に抱えていたトレイが、
乗っけていたマグを危うく落っことしそうなほど傾いており、
一体 何へ気を取られているのだと、何度もお声をかけたのにねと、

 「???」

小首を傾げた進さんが、
ふと……見下ろした自分の手元に、何かをああと気がついて。

 「すまぬな。小早川の大切な仔を。」
 「はい?」
 「壊しはせぬかと、気が気ではなかったのだろう?」
 「あ? ………な、そんなんじゃありませんっ。////////

あわわわ、思うところが見事に擦れ違ってしまってる。
それも、進さんのことを傷つけるような方向へだなんて、と。
ぱたぱた、間近へ歩み寄り、
ソファーの空いてるお隣りへ、膝からのし上がっての二の腕掴んで、
違いますよぉと目元潤ませ、懸命に言いつのれば。

 「…そうか。」

いや…だからね。
こいつはセナくんほど、
デリカシーだとかセンシティブだってことはないんだから。
そんなやりとりで他愛なく傷ついてくれるくらいなら、
とっくに“破壊神”の異名は返上しているはずなんだからと。
桜庭さんがいたならそういう注釈をくださったはずの仁王様、
静かに目許を細めて小さく微笑ってくださったのへ、

 「あ…。////////

わあ、進さんたら怒ってないんだ、なんて優しいんだろなんて。
セナくん、ますますの誤解を深めている模様。
そして、進さんの側はといえば、

 “小早川と似ていたものだから。”

小さくて柔らかで、筋肉の硬さなぞみじんもないような。
すぐにも骨格へ触れるほどに、華奢で可憐な手触りについ、
触れた手が離し難くてのそれで、
小さな仔猫、ずっと撫でていたかっただけなんだそうでして。


  シアワセというのは、
  たくさんの他愛なくも甘い誤解を積み重ねてもなお軽やかに、
  気づかぬうちにくるまれている温かさのことを言うのかも知れません。





  〜どさくさ・どっとはらい〜 08.12.13.


  *そして、客観的には“バカップル”ともいう。
   このところの暖かさに、緩みまくりの二人でございますが…。
   自分で書いといて何だが、クリスマスボウルはいいのか?
(笑)


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